成年後見人が必要になる複雑な相続。
崎本憲久さん
由佳里さん
突然の相続
ー今回松本に依頼した仕事について教えてください。
(由佳里さん):松本さんには、私の生家である、吉木家の相続のとりまとめを依頼しました。今回の相続は大変でした。2年前に父が85歳で病気で他界し、さらに弟も、その一ヶ月後に急逝。残されたのは、私と長兄でしたが、長兄は、そのとき後見人を必要とするような状態でした。
ー相続はどのように行なっていったのでしょうか。
(由佳里さん):父は、もろもろの財産を、弟を中心に遺していく方針だったようで、死後に遺言状も見つかりました。しかし、その弟が急逝したため、遺言状の内容には添えなくなりました。私は、崎本家に嫁に出た身だったので、吉木家の相続のことは、父と弟とに任せておりました。吉木家の財産状況については、何一つ分かっていませんでした。母は20年前にすでに他界しており、吉木家は、実質、私と長兄だけです。しかし、兄は判断能力に問題がある状況だったので、相続は、私が中心になって取り仕切らねばなりません。しかし、どこから手をつけていいか、まったく分かりませんでした。結局、何も決まらないまま、時間だけが過ぎてしまいました。
(憲久さん):吉木家は農家でした。農家には、たいてい、土地はあっても現金がありません。とりあえず妻が相続するであろう半分にかかる相続税だけは、地元の金融機関から借り入れを起こして、支払いました。しかし、残りの半分については、相続の方針が決まらないまま、結局、10カ月の納付期限を過ぎてしまいました。
ーその後、何をしたのでしょうか。
(憲久さん):まずは、地元のつてを当たって、税理士を紹介してもらいました。私も妻も、人生の中で「税理士」という人と付き合うのは初めてです。最初、私たちは自分たちの状況や気持ちを伝えようとしました。しかし、税理士からは、「自分は、相続税の計算や申告はできます。でも、その他のことはわかりません」という答えしか返ってきませんでした。
次に、弁護士を紹介してもらったので、再び、相談しました。弁護士ならば、相続に関わった経験も多いだろうから、こんな時にどうするのが一番よいのか教えてくれるかもしれないと期待しました。しかし、弁護士さんもまた、「相続のことで争いが起きたのなら、私が代わりに闘ってあげます。でも、それ以外のことは担当外です」というだけでした。
ここまでで分かりました。つまり、税理士は税金の専門家であり、弁護士は裁判の専門家ですが、でもどちらも「相続の専門家」ではないのです。「相続税ならお任せください」、「裁判なら対応します」とは言ってくれます。でも、こちらとしては別々に対応されても困るのです。私たちの目の前には、「相続」という、ひと塊(かたまり)の問題が、ゴロッと転がっているわけですから。
もう一つ、税理士や弁護士の対応からは、「ひとごとなんだな」、「ウチには関わりたくないんだな」、という印象も持ちました。というのも、妻が今の状況や気持ちを話そうとしても、それはほとんど聞こうとせずに、すぐに自分の業務分野のところに話をもっていこうとしますから。
それが仕事だからということなのでしょうが、しかし、妻としては、一ヶ月の間に近親者を二人続けて亡くし、しかも家の相続という一大事を、実質、一人で背負わなければいけないわけです。そういう人間が目の前にいるというのに、ちょっと対応が冷たすぎはしないかと、正直、思いました。
営業してくる不動産会社は全て断った。
ー相続の時には、税理士や弁護士の他に「土地売却のための不動産屋さん」も準備しなくてはいけません。そちらは、どう考えましたか?
(憲久さん):営業に来る不動産屋には、いっさい取り合いませんでした。義父と義弟の葬式が一段落ついた頃から、見知らぬ人間が家に来ては、「お父さんとは(弟さんとは)、生前から付き合いがあった。線香を上げさせてください」とか何とかいって、家に上がり込もうとするわけです。しかし、そういう人(会社)が何のためにウチに近づいてくるかというと、自分の商売のためであり、決して、私たちのために来ているわけではない。関わるとろくなことはないと思い、門扉(もんぴ)を閉ざしました。
ー吉木家の長兄への相続は、どうすすめていったのでしょう。
(由佳里さん):家の相続は、本来ならば、長男である私の兄が相続の中心であるべきでしたが、それは現実的に難しい状況でした。
(憲久様):それから相続の勉強をしていくうちに「成年後見人」という制度があることを知りました。もはや、これを使うしかないかと考え、私の方で、家庭裁判所に提出する書類も何とか書き上げてみました。 しかし、家裁への提出は、ギリギリのところで、妻が、どうしても、それに踏み切れませんでした。
後見人制度とは?
様々な理由で、判断能力が不十分である場合、不動産や預貯金などの財産管理や、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分で、それをやるのが難しいことがあります。最悪のケースでは、自分に不利な契約や取り決めであっても、よく判断ができないまま契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にも合いかねません。成年後見制度とは、「代理人(後見人)」を立てることで、こうした判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。
事情を知らない他人に家の中をかきまわされたくない
ー後見人精度を使うことを躊躇した理由を教えてください。
(由佳里さん):後見人には、弁護士など専門家がなることが多いと聞きました。ということは、ここで後見人の書類を提出してしまうと、それは、家の相続という、いちばんデリケートな場所に、「他人」が入ってくることになります。しかし、専門家のみなさんは、税金や法律の知識はあっても、私たちの複雑な事情のことは、積極的には理解しようとしません。最後は、ひとごとなのです。それを考えると、どうしても抵抗感がありました。
一時は、親戚に後見人を頼むことも考えました。しかし、判断力が低下している兄の後見人になるというのは、とても大変なことであり、なる側としても覚悟がいります。いくら親戚とはいえ、本当に巻き込んでいいのかどうか、やっぱり躊躇しました。
何とかしなければいけないのですが、どうしていいか分からない。自分たちは素人だから専門家に頼るしかないのだろうけれど、だけど、何も知らない他人に家の中をかきまわされたくはない。
迷いつづけているうちに、兄の分の相続税が納付期限をオーバーしてしまいました。早く決着をつけないと、延滞税がかさむばかりです。そうして、困り果てていたときに、松本さんと出会うことができたのです。
ー松本のことは、どうやって知ったのでしょうか。
(由佳里さん):うちの娘の夫が、松本さんと仕事上のつきあいがありました。私たちが苦しんでいるのを見かねてか、「自分の知り合いで、地主の相続のとりまとめを仕事にしている人がいます。会ってみますか?」と紹介してくれました。
(憲久さん):身内の紹介でもあるし、まずは会ってみようと思いました。とはいっても、知らない人なので、まずは私が先に会いにいきました。
ー松本の第一印象はどうでしたか。
(憲久さん):好印象でした。松本さんは、税理士、弁護士、司法書士、不動産会社などと連携し、それらを適材適所で使いこなして、相続の問題を「ひとまとめに」解決するといいますから。
今までは、税理士も、弁護士も、不動産屋も、自分の分野は対応するが、それ以外は手を出さないという姿勢、つまり「縦割り」でした。でも、松本さんは、専門家をヨコで連携させて、問題を一気に解決していくという。これは良いと思いました。
ー松本の年齢については。
(憲久さん):いえ、気になりませんでした。若いというのは、つまり勢いがあるということですから。
余談ですが、松本さんは元野球部で、高校時代は甲子園に出場したこともあるとも聞きました。これは軟弱じゃない。強い意志があるに違いないとも感じました。いい人だと思ったので、さっそく家内にも会わせることにしました。
ー奥様は松本の印象はいかがでしたか?
(由佳里様):私は、松本さんが、まず私の気持ちをていねいに聞いてくださることを、とても嬉しく思いました。それまでの専門家のみなさんは、話を聞いてくれませんでしたから。また、その席では、司法書士の門脇さんとも会いましたが、こちらも、お優しく、そして真面目な印象で安心感がありました。
そして、松本さんが、私たちと同じく、地主の家に、生まれ育ち、やがては自分も同じように相続の問題に直面するという話を聞いたとき、これで間違いない、もう、この人で決まり、と確信しました。
同じ環境、境遇にある人なら、相続の悩み、面倒ごと、そして何より、人に言えない部分を、すべて察していただけるからです。帰ってから主人ともよく話し合い、松本さんならきっと大丈夫、この人にお願いしようということで心が決まりました。
ー松本さんに質問です。その後、今回の取りまとめを、どのように行なっていったのでしょうか。
(松本):大きくは、次のような順番で進めました
(※一つずつ行っているのではなく、並行して進めている項目もあります)
1. 現状、事情の把握
2. 後見人の手続き
3. 遺産分割の方針策定
4. 不動産売却の計画
5. 借家居住者への退居交渉
6. 相続手続き、相続税の残金の納付
ー「後見人」の問題には、どう対応したのですか?
(松本):後見人には、由佳里様ご自身と、私のパートナーである司法書士の門脇さんの二人が立つことを提案しました。
あまり知られていないことですが、後見人は複数人立てることも可能です。まず、由佳里様ご本人が後見人に立つことで、今後、様々な決定が必要になったときでも、事情を知らない他人にひっかきまわされることなく、全てを自分で、後悔のないように決めることが可能になります。これに加えて、司法書士の門脇さんも後見人にしておけば、法律的な処理、対応が必要にな場面では、門脇さんが「本人として」、対応できます。
(由佳里さん):松本さんの提案は、まさに私たちが望んでいたとおりのことです。すばらしい。一も二もなくお受けしました。
ー不動産はどうやれば高額で売却できるのですか?
(松本):手持ちの不動産を高額で売却するには、「不動産の価値を高め、みんなが欲しがるような形に整えること」と、「それを欲しがる人をたくさん集めること」の2点が重要です。
今回は、まず、「借家の居住人にご退居いただくこと」に取り組みました。不動産は、居住者がいない方が、高く売れるからです。また、不動産は、住宅分譲会社などにとっては、広い土地が一度に買える方が、魅力的です。立ち退きが実現すれば、借家のある土地と、隣接する駐車場とを、ひっくるめて一括売却できるので、これも不動産の価値向上につながると考えました。
ー立ち退き交渉は、どのようにおこなったのですか。
(松本):これについては、立ち退き料などを用意した上で、崎本様、後見人である門脇さん、そして地元不動産会社が連携して、交渉を行いました。交渉は順調に進み、穏便にご退居いただけました。これで借家と隣接する駐車場を一括して売却することが可能になります。
その後、入札を行ったところ、多数の申し込みを集めることができました。最終的には、分譲住宅の会社に、高額で売却することができました。
(由佳里さん): この時は、いろいろな場面で、松本さん、門脇さんに同行いただき、本当に頼もしかったです。わたしが女一人で行っていたら、足もとを見られて、まとまる話もまとまらなかったと思います。
ー借家や駐車場を売却するときの仲介会社はどう手配したのですか。
(松本):こちらは、私のパートナー会社を使いました。最初は、それら物件を管理していた地元の不動産会社から、「売却は自分たちにやらせてほしい」と希望がありましたが、それをやったのでは、「吉木家、崎本家の望むような形の売却」にならない可能性が高いと判断したので、後見人である門脇さんと奥様とで不動産屋に出向き、丁重にお断りしました。
(憲久さん): 交渉の場面で、後見人の門脇さんがその場にいることには、「無形効果」があると思います。簡単に言えば、「にらみ」が効きます。妻が女一人で行ったのでは、あれこれ言われるかもしれませんが、司法書士が同席していれば、向こうも下手なことはいってきません。
(松本): この場合、門脇さんが「後見人であること」が重要になります。もし門脇さんが、後見人の資格を持たないまま同席したらどうなるか。それでも「専門家としてのにらみ」は、若干効きますが、最終的には、相手から「司法書士さんの意見は分かりました。でも、後見人である奥様の御意志はどうなのですか?」と返される可能性があります。
しかし、門脇さんが後見人の資格を持っていれば、そうした反論の恐れはありません。「これは後見人としての判断です」と一言いえば、相手は黙ります。
相続で悩んでいる人へのメッセージ
ーいま、相続の問題で悩んでいる人に向けて、メッセージなどあればお願いします。
(憲久さん):相続の問題は人それぞれ、家それぞれです。中には、私たちのような特殊なケースもあるかと思います。私たち一般人は、事情が特殊であればあるだけ、専門家に依頼するほかありませんが、ここでお伝えしたいのは、「専門家なら誰でもいい」というのではなく、「信頼できる人を見つけること」には、時間と労力を十分にかけた方がよいということです。
私たちの場合は、相続税の一部が延滞するほどに、粘りに粘りました。しかし、そうして納得がいくまで粘り続けたおかげで、ついには松本さんに出会えたわけで、振り返ってみれば、本当に良かったと思っています。
こういうことは、「間違った人」に頼んでしまうと、最初のボタンをかけちがうようなもので、すべてが間違った方向に進みかねません。たとえ時間がかかったとしても、信頼できる人を見つけることをおすすめします。
ー今後の見通し、計画について教えてください。
(由佳里さん):おかげさまで、一時は、全く見通しがつかなかった吉木家の相続は、無事、終わりました。ひとえに松本さん、門脇さんのおかげです。ただ、当家の相続はこれで終わりではありません。というのも、次は、私たちから娘達への二次相続があるからです。主人は64歳、私は62歳ですから、あと10年、20年もすれば、そういう時期が来ます。
私は、むかしは、心のどこかで「親は亡くならない」と思っていました。しかし、実際には、父と弟が立て続けに他界しました。やっぱり世の中、何が起きるかわかりません。子供達には、私たちがくぐってきたような面倒な思いをさせたくないので、これから松本さん、門脇さんと一緒に、「いちばん良い形」を考えていきたいと思います。松本さん、門脇さん、どうか引き続きよろしくお願いします。