【富士クラシック】
標高1200mの山麓に広がる360度大自然に囲まれた雄大なパノラマコースは、ゴルフデザイナーのデズモンド・ミュアヘッドによって設計されたことで有名。葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」を題材にしたコースは、全ホールから富士山を望むことができるWorld Class 18holeである。
山梨県南都留郡富士河口湖町富士ヶ嶺2 2
URL : http://fuji.classic.ne.jp/
うっすらと朝靄に包まれる富士山を眺めながら、私は熱いコーヒーを片手に仲間の到着を待っていた。
「卒業してから何年経つかな」残り少なくなったコーヒーをぼんやり視界に捉えながらあの頃を回想していると、程なくして精悍な顔つきのふたりが続々と姿を現した。ひときわこんがりと日に焼けた長身の男は、日大三高野球部時代の1年後輩の山森で、男らしい骨太の体格が同期の柴田だ。
甲子園という夢の大舞台を目指し、寝食をともにして苦楽を分かち合った戦友とのラウンドは格別のものがある。西の名門大阪桐蔭から右の長距離砲として転入してきた山森は、大学卒業後にプロゴルファーとして活躍していた元プロだ。寡黙で柔らかい物腰がどこか自分と重なる感じがあり、当時から気になる存在だった。今回は彼の手ほどきを受けられるということもあり、私も柴田も数日前から楽しみで仕方がなかった。
真夏とは言え、朝夕の富士山麓は涼しい。クラブハウスから一歩外に出ると、コーヒーで温まった身体には少しひんやりしたが、高原特有の風が心地よく何より空気がうまかった。芸術的と言うにふさわしい芝のコースコンディションに思わず寝転びたくなる衝動を抑えながら、私たちは10時過ぎにスタートした。
富士クラッシックは今回で4回目になる。毎回違う富士が堪能できるし、葛飾北斎の「富嶽三十六景」をモチーフにしているだけあって、バンカーも池もユニークだ。「今日はコンディションがいいな」いつもより体も軽く感じ、徐々にコンディションを上げていった私は、後半で会心のドライバーショットを放った。
…が、なんと、その直後に山森が打った球は軽々とその30〜40ヤード先を行ってしまったのだ。圧倒的なドライバーの飛距離にもたまげたが、彼のしなやかなスイングがあまりにも美しく、ふたりでポカンと見惚れてしまった。さすが元プロだ。何より力みがない。ゴルフでは力みは大敵だということを目の前で再認識させられた。
プレー中、時折私たちは彼からワンポイントアドバイスをもらった。スポンジのようにその教えを吸収し忠実にプレーした柴田は、肩の力が抜け球筋もぐんぐん変化していった。ちょっとしたコツを掴めばメキメキ上達することが多いゴルフだが、それには質の高い指導法が物を言う。
「まずはプロに聞く」とは、まさにこのことだと感じた。もうひとつ大切なのはやはり素直さだろう。どんなに優れた指導者がついても、学ぶ姿勢が欠ければ上達しないし、たとえ何かを成し遂げても意味がない。
話は変わるが、このラウンド中に柴田が面白いことを言った。「ところで富士山はどこなの?」山森と私は顔を見合わせて笑った。この富士クラッシックは、全ホールから富士山を拝覧することができる。つまり私たちはずっと富士山を仰ぎ見ながらプレーしていたのだが、あまりにも近い距離だったせいか柴田は気づかなかったのだ。
「角度が違えば見え方も変わる」私が商談でも使う言葉だが、柴田の言葉はそのことを改めて考えさせてくれた。気心の知れた仲間たちとのラウンドは、懐かしさとともに自らの原点回帰となる最高のひとときであった。
松本隆宏(文/山本さくら)