ギフト

おとぎ草子

(掲載:2020年10月 回帰 第3号)

「おとぎ草子」

京菓子処 吉廼家
京都府京都市北区北大路室町西入ル
ホームページ:http://www.kyoto-yoshinoya.co.jp/

地下鉄北大路駅徒歩3分。北大路通沿いに佇む趣のある京町家が印象的な和菓子店。創業は昭和元年と、老舗が軒を連ねる京都では新しいが、知る人ぞ知る人気店。技と伝統によって京の四季が映しだされた生菓子は、全国にファンを持ち、長い間多くの人から愛されている。

蓋を開けた瞬間、眩さに心がときめいた。果物や野菜、動物を形取った練り切りや饅頭がお行儀よく整列し、色彩豊かに輝く様はまるで宝石箱のようだ。約100種類ある和菓子から季節ごとに選んで詰めているそうなのだが、その芸術的な意匠に溜息が漏れる。

この商品名は、中世室町時代から江戸時代にかけて作られた短編絵入り物語「御伽草子」にちなんでいるそうだ。そんな情緒豊かなネーミングも、さすが「千年の都」京都らしさが伺える。

ここは日本茶か抹茶というのがお決まりなのかもしれないが、あいにくオフィスにはコーヒーしかない。

棚からいつものコーヒー豆を取り出し、これまた寸分違わないいつもの手順でペーパードリップした。「どれから食べよう」コーヒーの香りを鼻腔で楽しみながら数秒程悩み、やがてスイカの練り切りを選んで口へ運んだ。瞬く間に自家製餡の優しい香りが口に広がり、ほろりと溶ける。

控えめながらも存在感がある上質の味だ。洋菓子も時々口にするが、目にも舌にも忘れがたい印象を残す繊細な和菓子は心を穏やかにする。四季を映したその土地でしか作れない和菓子というのは、もしかすると洋菓子よりバリエーションに富んでいるのではないだろうか。

「お客様に喜んでいただきたい」材料も厳選したものだけを使用し、余計なものを一切加えないという店主のこだわりは、利益度外視で相手の喜ぶ顔をただ見ていたい私の想いと共通するものが感じられる。コロナ禍で旅行が不自由になった今、旅をする感覚で取り寄せてみるのもいいし、とっておきの手土産としてぜひオススメしたい至高の逸品である。

松本 隆宏(文/山本さくら)