2021年12月1日、ホテル雅叙園東京に於いて開催された「まるの会 2022年望年会」(主催:株式会社まるの会)にて、山中氏が講演「野球を学び 野球から学ぶ」。当日は、全国から多くの中小企業経営者や士業、医師など幅広い層の会員が来場した。山中氏はオリンピック監督としての経験談や、自身の監督論について熱弁。約1時間半に及んで行われた講演会は盛会に終わった。弊誌では、特に後半30分で語った「監督論」に焦点をあて全2回にわたって紹介。山中氏の持論を通して経営組織論を学ぶ。
山中 正竹氏
1992年バルセロナオリンピック野球日本代表監督
2021年東京オリンピック野球日本代表強化本部長
1947年大分県生まれ。法政大学時代、東京六大学野球史上最多となる通算48勝をマーク。一年上の田淵幸一、山本浩司、富田勝三選手と共に法政大学の黄金時代を形成。
卒業後、住友金属に入社し、都市対抗8年連続出場。現役引退後は、住友金属監督として都市対抗1回、日本選手権2回優勝。その後日本代表コーチに就任し、88年ソウルオリンピックで銀メダル、92年のバルセロナオリンピックでは監督として銅メダルを獲得。94年から’02年には法政大学で監督に就任、7回のリーグ優勝、日本一1回へと導く。2016年野球殿堂入り。2017年全日本野球協会副会長に就任、同年、侍ジャパン強化委員会強化本部長に就任。2018年全日本野球協会会長、2019年アジア野球連盟副会長に就任。
次に「自立と自律」。自分から動く、そこからの自己管理です。
これは選手にしっかり伝えなければならないし、実際にトップリーダーとそうではない人の決定的な違いはここにあると思います。上手くなりたい、勝ちたいというのは選手の思いとして間違いないが、楽しみたいという言葉をオリンピックでよく聞きます。しかしそれは、上手くなっていることの自覚、勝つことの喜びから生まれるものだと考えています。
それから「心技体」。これは最も当然のことで、野球の技術を高めるには、投げる、打つ、捕る、走るという4つの技術があります。これをいかに早く強く正確にやるか、ということを目指して毎日練習する。なぜ早く強く正確にやるかというと、科学的に立証されたカタチで継続してやっているかということです。4つの技術を自覚せず漫然とやっているのか、あるいは早く強く正確にやることを意識せずやっているのか、やらされているのか?そういう科学を全く無視してただひたすらするのとでは、大きな差が出てくるのは間違いない。
次に「非凡に繋がる平凡」ですが、当たり前のことを当たり前にやりましょう、ということです。
当たり前のことを当たり前にやり、平凡なことを続けていくと必ず非凡に繋がります。それを続けていくと、より高いものを望むようになり、それがまた当たり前になる。それをみんなができるようになると、もう一段高いレベルの当たり前が出てくる。それを知っている集団かどうかで差が出る。
技術や競技力を高めるのは、やはり気持ちがないとやっていけません。オリンピックの選手達が、金メダルを取って「おめでとうございます」と言われて、「周りの人に支えられ感謝しています」とか「気持ちでした」と必ず言いますが、それは”気が技を導いてくれた”ということなんです。
次に「何があっても驚かない」と言うこと。
国際大会などに行くと、当然のことながら綺麗にグランドが整備されて、時間に正確で、という何もかもが日本と同じ状況にはならない。現地では、バスを待っていても来ない、グランドが整備されていないということはよくあるが、日本人はそれに弱く、不満が出る。しかし、そこではそれが最高の準備かもしれない。そういう状況で、それをどう理解した上でどう戦っていくかが大事。
しかし、いつまでもそこにこだわっている日本のチームがある。最近ではなくなってきましたが、これは過去によくありました。帰ってきて、何かが違うとか、食べ物が食べられないとか、ストライクゾーンが違う、など不満を言う。しかし、そういう想定外も準備しなければならないと常に選手に伝えていくことが大事です。
次に「自分自身に問うこと」です。自省をする、確認をするということです。
指導というのは、我々の世代は特に気をつけないといけないんですが、どうしても経験論を語ってしまう。経験の中に貴重なこともある訳ですが、それを論理的に説明できるかできないか。これが大事なことだと思いますし、特に技術を伴うものは繰り返しの中で身についていくものです。ですから、指導者というのは論理的に根気よく伝えていかなければなりません。
次に「専制、民主、放任」。民主国家より専制国家というのが増えている中で、どちらがいいのか私には問えません。「私は選手任せなんですよ」という監督もいれば、ガンガンやっている監督もいます。私は、場合によって、人によって、状況によって、上手く使っていかなければと思っています。
あと「数字」は非常に説得力があります。90マイル(145km/h)プラスサムシング何とか、というのが、野茂投手の時代にありました。日本のピッチャーが90マイル投げられるように、145km/hプラス何か自分の扉を見つけましょうと。数字というのは、選手が目標を持つのに明確なアドバイスになります。
それから「結果にこだわれ」ということ。特に私は負けた時にこだわります。それがグジグジしていると受け取られるかもしれないが、そうではなく、それを責めている訳でもなく、ここを抑えなければ問題解決にならないからです。”みんなわかっているだろうから明日確認しよう”というのは、問題の先送りにしかならない。速やかに問題解決に取り組んで、結果にこだわるということ。
それから「結果にこだわれ」ということ。特に私は負けた時にこだわります。それがグジグジしていると受け取られるかもしれないが、そうではなく、それを責めている訳でもなく、ここを抑えなければ問題解決にならないからです。”みんなわかっているだろうから明日確認しよう”というのは、問題の先送りにしかならない。速やかに問題解決に取り組んで、結果にこだわるということ。
それから「彼はよくやっているから使ったらどうですか」とコーチから言われることがあるが、そこに恩情が入ると恩情の追っかけっこになってしまい、勝負の道では危険な落とし穴になってしまいます。
そして「選手に任せる」ということですが、選手は選手なりによく考えています。私以上に考えているかもしれないし、選手同士で考えているかもしれない。選手というのはそういうものだと知らなければならない。
あと「妥協」ですが、本当に結果がうまく出ない時は、悔やんでも悔やみ切れないということに繋がっていきます。
また「負の存在」ですが、選手全員が同じ方向を見ているチームというのはなかなかありません。要するに、チームの足を引っ張るものに対して看過すべきではないということです。
そして「プレッシャーを喜ぶ」ということ。プレッシャーがないもの程つまらないものはありません。期待をされ褒められ求められている、これはある意味喜びです。それに挑戦できる喜びを与えられているということ。勝負に対する情熱が希薄になった時はやめなければならないと思います。
最後になりますが、やはり監督と選手の「信頼性」です。その信頼というのは、監督が学ぶ姿や、より高いものを求めて努力している姿を見て、選手は一緒になって戦いたいという想いを持つようになる。そういう信頼関係を作っていくことが大事です。何も言わなくても目と目で通じ合ったり、背中で何かを伝える。そういうチームを作っていくのが理想的であり、リーダーというのはこういうものだと考えています。
今も組織の中で色々な問題や新たな道にぶつかった時に、監督だったらどうするか?という思考が私を支えてくれたり、ヒントを与えてくれています。
ご静聴ありがとうございました。
会場となった「ホテル雅叙園東京 HOTEL GAJOEN TOKYO」
東京都目黒区下目黒1-1-8