こだわりの暖簾

東京「鮨武」〜 特別な一軒、特別な一品が私の人生を豊かに育む 〜

(掲載:2022年10月 回帰 第11号)

【鮨武】

東京都渋谷区西原3-23-1 代々木上原羽田ビル 1F
小田急線 代々木上原駅徒歩5分
【営業時間】
平日:ランチ11:30〜13:45(LO) / ディナー18:00〜21:00(LO)
土日祝:ランチ11:30〜13:45(LO) / ディナー17:00〜20:00(LO)
定休日:水
サイト情報:https://sushitake-uehara.com

老舗名店の系譜を受け継ぐ江戸前鮨

代々木上原の閑静な住宅街。その一角に、シンプルで洗練された佇まいを魅せる「鮨武」がある。

店主・毛利 武司氏は、大学卒業と同時に実家の鮨店を継いだ。以降20年間、店の暖簾を守り続けてきたが、様々な事情により惜しまれつつ閉店。その後は、他店で働きながら、美味しいと評判のお店を聞きつけては食べ歩き、理想の鮨を求めていた。

そんな時、高校の後輩から「もうお店をやらないんですか?毛利さんのお鮨を待っている人が沢山いるはずですよ。」と声をかけられる。

自分が求める美味しいお鮨は、やはり自分で作るべきだと気付き、自身の味を表現するために2015年に「鮨武」をオープン。代々木上原の地を選んだ理由は、繁華街で不特定多数のお客様を呼び込むより、店の味を確かめたお客様がリピーターになってくれることで、繁盛する店にしたかったからとのこと。

住宅街の小さな店は、常連さんが多い。「ガラっと店の扉を開けると、常連さんが一斉にこっちを見る、という店にはしたくなかったので、扉を開けても店内のお客様とは視線が合わず、且つ、私からはお顔が見えるように入口の壁にスリットを入れました。」というこだわりよう。

また、お客様を見下ろさないように、つけ場は20センチ低くした。

誠実な仕事が随所に感じられる鮨武の魅力

一番大切にしているのは、握りの前のおつまみや料理が過剰にならないこと。鮨屋のウリはなんといっても握りだ。その握りを食べる前に、お腹がいっぱいにならないよう細かく計算する。そして重要なシャリは、短時間で味が劣化するため、鮨武では少量のシャリを数時間で使い切る。多い時には1日で5〜6回米を炊くことになるが、そうすることでシャリの美味しさを維持できるそうだ。

人気メニューは、おつまみとにぎりがセットになったコース。おかわりが多いのは穴子、コハダ、のどぐろ。追加では、いぶりがっこを使ったトロタクがよく出る。

「魚は仕入れがすべてです。良くない魚を調理の腕でカバーすることはできません。良い魚を選ぶこと、それを適正に仕込むこと、仕込んだネタを良い状態で管理すること、そしてこれらを常に緊張感をもってやりきることです。」そう語る毛利氏の眼差しは真剣だ。

鮨の材料はシャリとネタのみとシンプルなだけに、職人の繊細な技が個性として表れる。カウンター越しから見える手捌きは、流線を描くように美しく、スッと出された握りを口にしたゲストの頬は思わずほころぶ。江戸前鮨の真骨頂と言える鮨武の握りは、ひと口入れただけで活力がみなぎり、それでいてホッとする滋味深い味なのだ。

「すべてのお客様から100点をいただくことは現実的には不可能ですが、その不可能を可能にするにはどうすべきかを日々考えています。」

唯一無二を追い続け、ひとつとして妥協を許さない店主の誠実さが、今日もひとり、またひとりとファンを増やしていく。

鮨武 毛利 武司 氏
「お鮨はお客様の心にちゃんと残ってくれるもの。
 私どもは、そんなお客様の心を裏切らないようにしっかり仕事をしていきます。」