時空の旅

「石川県金沢市」五感に刻む 加賀百万石の旅

(掲載:2021年7月 回帰 第6号)

【金沢市】

人口462,568人。石川県の中央に位置する。江戸時代には約150年にわたり加賀百万石の城下町として栄華を極めた。特産品としては、九谷焼、加賀友禅等の伝統工芸品が有名。

五感が総動員する体験と、期待値を超える感動に遭遇した旅は、人の記憶に鮮明に刻まれる。私にとって金沢の旅はまさにそれだった。

江戸、大坂(大阪)、京都に次ぐ都市として栄えた金沢は、明治維新によりその隆盛こそ失ったものの、空襲を逃れたことと市民の努力により、今なお当時の名残を至る所に色濃く残す。

この歴史ある城下町を歩き訪ねると、独自の伝統工芸、食文化を肌で感じることができる。例えば、伝統工芸であれば金沢漆器、九谷焼、加賀友禅、金沢箔など。これらの文化が庶民に根付いた背景には、加賀藩の意識の高い施策にあったという。

長町にある武家屋敷通りをぶらりと散策していると、雰囲気の良い門構えに惹かれて、ある一軒の窯元に立ち寄った。

創業文政5年(1822年)、九谷焼の老舗「鏑木商舗」だ。店内は古民家美術館のような雰囲気で、日常使いのものから人間国宝の作品まで品良く展示されている。

その煌びやかで色彩豊かな絵付けはたちまち私を虜にした。記念に数枚の小皿と酒器セットを購入。また家飲みの楽しみが増えたことにひとり嬉々とする。その土地の焼き物を購入するのが、最近の旅の楽しみのひとつでもある。

市内のスターバックスでは、地域限定の「JIMOTO made Series」として九谷焼のマグカップなどを販売しているのでチェックしてみるのも面白いだろう。

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絶対食べたい金沢冬グルメ

金沢旅行と言えば何と言っても金沢グルメ。市民の和菓子購入率は全国トップ。言わずもがな、京都、松江と並ぶ和菓子三大処として有名だ。

その他、金沢グルメには、金沢おでん、ハントンライス、加賀麩などが名を連ねるが、とりわけ私の心を惹きつけるのは、能登や金沢港で水揚げされる北陸の海の幸。初めて金沢で寿司を口にした時は、あまりの美味さに頰が緩みっぱなしだった。

回転寿司なんて、もはや回転寿司のレベルではない。「今まで食べていた魚はなんだったんだ?」と疑いたくなるほどである。

特に深秋から春先にかけて獲れる寒ブリ、ノドグロ、甘エビは極上で、舌の上でとろける旨味に思わず「参りました」となる。

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ところで、なぜ、北陸の海の幸はこれほどまでに美味いのだろうか。

聞くところによると、石川県の沖合は、

①寒流と暖流が交わる地域にあり、植物プランクトンが発生しやすいこと
②名山である白山から里山の良質な栄養分を含む雪解け水が海へ流れ込むこと
③清浄で栄養塩が豊富な海水に恵まれていること

などいくつもの好条件が重なった豊かな漁域なんだとか。なるほど、海を味方につけるとは百万石の大藩恐るべし。

歴史・文化・食・街並み、これほどまでに美しく多彩な表情を見せる街も決して多くはないだろう。行けば行くほど、知れば知るほど無限の魅力に溢れる街。次の金沢に思いを馳せペンを置く。

松本 隆宏(文/山本さくら)