時空の旅

「厳島 広島県 廿日市市」
世界遺産を訪ねる

(掲載:2023年4月 回帰 第13号)

【厳島(宮島)】

広島県廿日市市宮島町にある島。瀬戸内海西部に位置する。通称は安芸の宮島(あきのみやじま)、または宮島。古来より島そのものが崇拝の対象であり、日本屈指の参詣地、観光地として栄える。2011年には「外国人に人気の日本の観光スポット」第1位に選ばれる。

旅行者を惹きつける宮島の世界観

穏やかな瀬戸内海をゆったりと航行していくと、やがて朱色の大鳥居が視界に入ってきた。威風堂々としたその佇まいは、まるで島を護る門番のようにも見える。

広島駅から電車とフェリーを乗り継ぐこと約40分。京都の天橋立、宮城の松島と並ぶ日本三景のひとつである安芸の宮島(以下、通称:宮島)は、嚴島神社(公式表記)を筆頭に、国の重要文化財である千畳閣、五重塔、大聖院といった神社仏閣、紅葉の一大名所として知られる紅葉谷公園など、多くの観光スポットが点在する。

古くは平家一門をはじめ、豊臣秀吉、足利将軍家、伊藤博文、夏目漱石などの権力者や著名人がこの地を愛し、古来より人々から神の島として崇められた地でもある。

伊藤博文は、とりわけ島の中央部にある弥山(みせん)頂上からの眺望を気に入り「日本三景の一の真価は頂上の眺めにあり」と絶賛したという。

この弥山の原始林も世界遺産の構成要素であり、じつに全島14%が世界遺産だというから驚きだ。また、二つある展望台からの眺望は『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で三つ星に評価されるほどで、その実力は折り紙付きである。

宮島桟橋に着くと、親子だろうか、大小2頭の鹿の可愛い出迎えにあった。そのまま西側へ歩を進めると、門前町が現れる。そこには、揚げもみじソフト、牡蠣、ミシュラン獲得の穴子めしのお店などの宮島グルメが軒を連ねている。

旅行業界もようやくコロナ禍前の水準に戻ってきたと言われており、宮島も例外なく活気に満ちていた。香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、そういえば朝から何も食べていなかったことを思い出す。

せっかくなので、揚げもみじを買って軒先で頬張る。その名の通り、広島名産のもみじ饅頭を揚げているのだが、癖になる味に思わず「美味い!」と言葉が漏れた。

そして、ここでもまた数頭の鹿に遭遇。島の至る所で見かける宮島の鹿は、嚴島神社創建前より野生種が多く生息していたが、戦後GHQのハンティングにより絶滅の危機にあった。

そこで奈良から数頭寄贈され自然繁殖、現在に至るのだそうだ。奈良と比べて性質が穏やかなのは、餌付けを禁止しているからだと島の人は言う。

宮島の鹿は人々に愛され大切にされ、長らく共存してきた歴史があるのだ。

日本屈指の名社の極み

ひとしきり空腹を満たしたところで、さらに西へ進むと、今回の旅の目玉である嚴島神社が見えてきた。海と緑を背景に、どの方角から見ても美しいこの景色は、訪れる者の心の琴線に触れる。

1996年に世界遺産に登録された嚴島神社は、推古元年(593年)に創建。仁安 3年(1168年)に、平清盛によって現在の姿に造営された。

世界的にも有名な海上の大鳥居は、固定されておらず自然の重みだけで立っているという。「完璧に固定」しないことで力を逃がし地震の揺れなどを軽減する、伝統的な免震技法なのだそうだ。

一番の見どころはなんと言っても「本殿」。寝殿造りの本殿は、国宝に指定されており、一間に8枚敷いてある廻廊(かいろう)の床板には釘が一切使われていない。

板と板の間を少しずつ開けることで、台風等自然災害からの影響を受けない構造だ。

これらは当時の測量や建築技術の水準がいかに高かったことを物語っているのだが、まるで突然変異によって誕生したかのような古代建築の超技術には、終始感嘆の溜息ばかりである。