腹を抱えて笑うシーンがあるわけでもなく、手に汗握るシーンがあるわけでもない。派手さは微塵もないのだが、なぜか妙にジワリとくる、そんな作品だ。
堺雅人演じる主人公・西村は、代理で急遽、南極観測隊の料理人としてふじ基地へと赴任する。昭和基地から1000kmも離れた陸の孤島・ふじ基地は、空気が薄く平均気温-54℃の壮絶な環境だという。
その環境下で、西村は越冬する8名の隊員の食事を担当しながら、非日常から生まれる繋がりや発見を見出していくというストーリー。
共演俳優には、生瀬勝久、高良健吾、豊原功補などの実力派が固め、隊員達の喜怒哀楽を絶妙に演じる。実際に南極観測隊として現地で働いていた人物の実話なので、隊員達の日常やメンタルの動きをリアルに伺い知ることができるだろう。
南極といえば昭和世代は「南極物語」の悲劇を連想するが、それとは様子が違い、コメディタッチに描かれているので世代を選ばず楽しめる作品だ。人によっては評価が分かれるところだが、コロナウイルスの流行に始まり、現在進行中の戦争や日本経済の鈍化が進む世の中だからこそ気づく魅力が、この作品にはあると感じる。
食べることは生きること。食べることは楽しむこと。食を通じて、当たり前の日常がいかに奇跡かということを考えさせられた。