時空の旅

「赤目四十八滝 三重県名張市」
忍者修行の森

(掲載:2024年10月 回帰 第19号)

元箱根から望む富士山と箱根神社の鳥居

【赤目四十八滝】

三重県名張市赤目町の滝川沿いを流れる滝の総称。その景観は「平成の名水百選」「日本の滝百選」「森林浴の森百選」「遊歩百選」に選ばれている。伊賀忍者修行の地として、多くの忍者を輩出してきたことで知られる。

梅雨が明けたばかりの7月の下旬。ほんの思いつきから一泊二日で三重県の名張を訪れた。2日目の朝、チェックアウトを済ませたところで、宿の主人から「赤目四十八滝」の存在を聞く。

「この裏手をずっと歩いていくと滝が見れますよ。ハイキングコースになってるからお時間があれば行ってみてください」

(滝があるのか…)特に急いで帰る必要もなく、それならと軽い気持ちで登ることにした。

いざ忍者の森へ

この渓谷は、戦国時代に伊賀忍者の祖・百地丹波が修行したといわれ、その長さは約4キロ。伊賀(三重県)と大和(奈良県)の国境にある室生赤目青山国定公園の中心に位置する。大阪から急行に乗れば1時間程で最寄りの赤目口駅に到着できるため、県外からも多くの観光客や行者が訪れるという。

さて、宿の主人から教わったとおり、昨日来た道とは逆方向の宿の裏手へ進むと程なく滝の入り口が見えてきた。オオサンショウウオをはじめ赤目に生息する生物が展示されている「赤目滝水族館」を通り抜け、川沿いを200mほど歩くと、次第にその様相が見えてきた。

山深い渓谷に広がる深い緑と水のせせらぎ。灼熱の下界からは想像できない大自然の懐に包まれ、天然のクーラーが火照った身体をスーッと冷やしてくれる。ここでかつて忍者が修行していたのかと想像すると、壮大なストーリーを感じずにはいられない。

赤目五瀑をめぐるハイキングコース

20以上の滝から構成される赤目には、特に見所とされる「赤目五瀑(不動滝→千手滝→布引滝→荷担滝→琵琶滝)」がある。その3つ目の布引滝を過ぎ、散策コースから渓谷ハイキングコースへ入った辺りで、何やら状況が変わってきた。

「まずい…」ここで初めて自分の服装にハタと気付く。ハイキングコースとはいえここは渓谷。調子に乗ってズンズンと登ったはいいが、スタート地点からすでに900m。標高も幾分上がっているはずだ。

周囲を見渡すと先程の散策コースのような人々の賑わいはなく、いつのまにか本格的な登山ウェアを纏った人ばかりになっていた。そもそも、旅の初めから山道を歩くことを想定していなかった私は、全身街歩きの軽装。特に足元がなんとも頼りない。

大して高価な靴ではないが、卸して日も浅く最小限のダメージでとどめておきたい。せめてスニーカーでも履いてくれば良かったと後悔するも、引き返すのが勿体無いと感じる距離まで進んでしまっていた。

立ち止まって乱れた呼吸を整え逡巡していると、ふいに私の横をカメラマンらしき若い男性が通り過ぎていった。重そうな機材とリュックを担ぎ、勾配のきつい岩階段をまるで忍者のように飄々と駆け上っていく。山岳写真の手練れなのだろう。その後ろ姿に私は意を決し、先へ進むことにした。

滝の魅力を知る

18番目の滝であり五瀑4つ目の「荷担滝」は、神秘的で記憶に残る滝だった。落差8m程の高さから分かれたふたつの滝と、そのすぐ上流の3mの斜瀑で構成されており、赤目渓谷を代表する最も有名な滝だ。

先程のカメラマンもここで腰を据え撮影している姿が見えた。やはり撮影欲を掻き立てるスポットなのだろう。ひとつとして同じ姿を見せない白い瀑布。木漏れ日が反射しコバルトブルーを発色した滝壺。それらが創り上げる美しいアートが疲れた私の身体を癒してくれた。

そしてこのあと、渓谷ハイキングコースを残り300mにして、ついに私の気力と体力の限界がきた。たった300mが10倍にも20倍にも感じるのだ。おそらく重装備であれば余裕だったのかもしれない。ふざけた格好で山道を2.5kmも登ったのだから良しとしなければ…。やはり登山ウェアは理に叶っているのだと、もはやどうでもいいことに深く感心し天を仰いだ。しっかりと山の洗礼を受けた私は、ここで泣く泣く撤退。次回リベンジを誓った。

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