小学生になると平和学習とともに反戦を題材にした映画に数多く触れてきた。特に米兵が撮ったであろう、戦中戦後の地獄のような惨状をおさめた8mmフィルムは、子どもの意識に戦争の悲惨さを植え付けるには十分すぎる材料であったし、映画を通して平和の大切さをこれでもかと叩き込まれたものだ。
あるいは、祖父母や語り部のような戦争経験者がまだ多く生きていた時代には、折に触れ生々しい実体験を聞かされた人も少なくないだろう。しかし、時が経ち令和の今、若者たちは過去の戦争をどう見ているのだろうかー
汐見夏衛のベストセラー小説「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」が、成田洋一監督のメガホンにより実写映画化、2023年12月に公開された。
公開からすぐS N Sで話題を呼んだ本作は、若年層の間で拡散され、またたく間に多くの世代から注目を集めた。結果、関係者の予想を超えて興行収入45億円という大ヒットを記録する。私が訪れた映画館でもやはりS N S効果なのだろう、観客の7割は若者が占めていた。
女子高生の百合(福原遥)は、ある日ひょんな事から1945年にタイムスリップ。そこで特攻隊員・彰(水上恒司)と出会いやがて恋に落ちる。
劇中では、空襲のシーンはあるものの、「エイヤー!」と敵に突撃する戦闘シーンや政治的な描写はなく、特攻隊員の国への忠誠心や、彼らを見守る町の人々の交流などを中心に描かれている。
戦争映画としてはリアリティに欠けるという人もいるかもしれないが、タイムスリップした女子高生と特攻隊員の恋という現実離れしたストーリー性だからこそ、若年層が没入しやすかったのかもしれない。
観る視点によって感じ方の違いはあれど、生きることが大変だった時代に、必死で命を紡いできた祖先の想いに心を寄せ、当たり前ではない今ある命に感謝をしたい。
上映後、場内は涙で立ち上がれない若者で溢れていたことに安堵感を覚えた。心を揺さぶるメッセージ性で現代人の心を掴み、特攻の歴史や戦争について考えるきっかけになったという意味では見事と言える一作ではないだろうか。