熱海から相模灘と初島を望む。初島までは熱海港から高速船で30分。初島側あらは富士山を望むことができる。
熱海は、これから見頃を迎える熱海梅園に熱海城、起雲閣に熱海サンビーチなど、新旧の名所が満載だ。
その人気の観光名所のひとつ「MOA(エムオーエー)美術館」は1982年にオープン。国宝や重要文化財を含む約3500点の美術品を所蔵する。館内は美術館では珍しい能楽堂が設置されている他、四季折々の美しさを表現した庭園もあり、訪れる者を魅了する。MOA美術館の魅力は、なんといっても3階から見下ろす相模灘の絶景。天候が良ければ、初島まで一望できるという。高台から見る太平洋は勇壮だ。
美しく広がる海と澄んだ青空の風景は、地球の静と動が融合する自然の芸術だと感じる。日本は四方を海で囲まれている影響からか、海そのものが持つ色彩美に癒される人も少なくないだろう。
だが、魅力は外側だけではない。相模灘から獲れる魚は1300種類、そのうち300種類が食せるといい、広大な生命の宝庫でもあるのだ。
その恵まれたフィールドで育まれたアジやサバは、どの海域で獲れるものより脂が乗って旨いという。その証拠に、熱海で食べたアジフライやアジの開きは、どれも過去最大のサイズで、思わず声が出てしまうほどの旨さだった。
熱海に来るならば、誰しもきっとアジの概念が変わるだろう。
MOA美術館。国宝等を含む約3500点の収蔵品を誇る。約7万坪の高台に立つ熱海を代表する美術館。
MOA美術館能楽堂。美術館としては珍しい能楽堂。年間を通じて様々な能や狂言、コンサートなどを開催。
JR来宮駅から北東の小高い場所に位置する来宮神社。熱海一体の地主として鎮座する来宮神社は、「日本武尊(やまとたける)」・「五十猛命(いたけるのみこと)」・「大己貴命(おおなむちのみこと)」の3柱を御祭神とする。古くから来福・縁起の神として信仰されており、坂上田村麻呂が戦の勝利を祈願したこともあって、歴史的にも有名な神社だ。
境内には、併設するカフェで使用するストローの他、本殿右手の斎館のタイルなど、ハートの形を目にすることが多い。ハート型は逆さにすると猪目。文字通り猪の目に似ていることから、古来より魔除けや来福の縁起物として神社仏閣で使われてきた。
もうひとつ、来宮神社といえば、樹齢2100年超のご神木「大楠」が有名だ。本殿横の「楠への小道」を抜けるとその姿が現れる。幹回り約24mという巨大な大楠は、1000年以上に渡り、熱海の人々や旅人たちを見守ってきた。実際に桁違いの大木を前にすると、その迫力に圧倒され息を呑む。ふと辺りを見渡すと、誰もが皆、自然に手を合わせていることに気付く。山岳信仰が根付く日本において、大自然に対する畏怖の念は、日本人の本能に近いものがあるのかもしれない。
余談だが、大楠の周囲には、高い位置から拝めるデッキや、背もたれベンチが設置されていることに少々驚いた。アミューズメント感が否めない光景だが、神社も時代の変遷に合わせて進化している、といったところだろうか。古き良き、新しき良き、これまた融合なり。
来宮神社境内にある本州一の巨樹「大楠」。天然記念物に指定され、日本屈指のパワースポットとして人気。
日本屈指の温泉観光地もバブル崩壊後は衰退の一途を辿った。しかし、その後官民の協力により2012年にはV字回復、見事に復活を遂げる。そして令和の今、昭和レトロな街並みに若者向けのコンテンツが増え、グルメ、歴史、温泉と幅広い世代の観光客が集まるようになった。
熱海と言えば、街の歴史が古く興味深い。せっかく旅をするなら、その街の文化や歴史を学ばなければ勿体無い。それが、より印象深い観光体験になるし、あるいは、自国を知らずしてアイデンティティを語れないのでは、とも感じる。
徳川家康をはじめ、名だたる芸術家や文豪が愛したと言われる熱海温泉は、豊富な湯量を誇る。泉質は無色透明で、硫黄の匂いが少なく、湯あたりが柔らかい。熱海を愛した彼らも、この湯にひとときの桃源郷を求めたに違いない。ひとしきり観光した後は、冷えた身体を湯船に委ね、歴史の深淵を肌で感じてみるのもいいだろう。
「熱海梅園」。約1400坪の敷地に60品種、計469本の梅が咲き誇る。
「起雲閣」。1919年に別荘として建てられ、のちに旅館として営業。現在は熱海市所有の観光施設。
「熱海城」。1959年(昭和34年)に天守閣風建築物として建てられた。歴史的に実在したものではない。市街地や相模灘を一望できる絶景スポット。