【車山高原】
標高1925m。長野県茅野市と諏訪市をまたぐ山で、霧ヶ峰連峰の主峰。春〜夏は高原ハイク、冬はスキー、スノーボードとオールシーズンで楽しめる。
中央自動車道の諏訪インターチェンジを降り、長野県茅野市の市街地を抜けると、標高2000mの美ヶ原高原へと繋がるビーナスラインがある。その長さは全長76km、ノンストップで約1時間半の山岳ドライブルートだ。途中には、蓼科高原、白樺湖、車山高原があり、信州の観光スポットとして人気が高い。
まばゆいほどの青空は、旅の幸運を予感させる。蓼科高原の手前で窓を全開にし、外気を車内に取り込む。僅かたりとも不純物を感じない空気の美味しさは、長野に来たことを実感させる。
目指すは日本百名山「霧ヶ峰」の最高峰、車山高原。春夏はハイキング、冬はスキーなど、四季を通じて楽しめる高原リゾート地だ。
平均標高1400mの山道をぐんぐん走らせていくと、次第に視界が広がっていく。視界を遮る建物など一切なく、雲が近い。気温もおそらく市街地より3度ほど低いだろう。一気に涼しくなり、風の種類が変わったことを感じる。
しばらく緑の中を進んでいくと、車山高原SKYPARK RISORTの入り口に到着した。平日ではあるが、駐車場は程々に埋まり、家族連れや若者のグループ、登山客などで賑わっている。そこからリフトに乗り換え、頂上を目指す。
途中で、ふと、斜面の茂みに何かの気配を感じた。視線を向けると、そこには1頭の牡鹿。お互いにじっと見つめ合う。その風貌は、まるで「もののけ姫」に登場する”シシ神様”そのもの。高ぶる気持ちを抑えながら、静かにシャッターを切る。
予期せぬ出会いを楽しんでいると、あっという間に頂上に到着。係員の誘導のもと、リフトから下り立った私は、そこで言葉を失った。
果てしなく広がる緑の大地。遠く向こうには、母なる富士。気候と地形によって生み出された奇跡の絶景が、視界の領域を満たす。想像をはるかに超える美しさに、今いる場所がわからなくなる感覚に陥った。
日本には、まだ見ぬ風景がどのくらい存在するのだろうか。すると、ふいに通り過ぎていく風に我に返った。霧ヶ峰連峰を吹き抜ける澄んだ風。その風は夏でも冷涼で、三菱のエアコン「霧ヶ峰」は、この地が由来になっている。
草原一帯には、ニッコウキスゲ、キンバイソウ、コオニユリなど、下界ではお目にかかれない夏の高原植物が彩りを添える。
360°の大パノラマに酔いしれていると、先ほどまで広がっていた青空が次第に様相を変え、空気が湿度を帯びてきた。どうやら雲の中に入ったらしい。山の天気は変わりやすい。気候は北海道の旭川と似ていると言われ、真夏の最高気温は平均で25度を切る。
山裾からは確認できない、天空のネイチャーワールド。風と緑の薫りを肌で感じ、地球の鼓動に耳を傾ける。何もない、何もしない非日常の世界。これこそが、現代人に必要な真の贅沢かもしれない。
車山神社「別名『天空神社』。車山山頂にあり、登山者や日本を代表する山々を見守っていると言われている。」
車山ハイキングコース「初心者から上級者向けの様々なルートがあり、シーズン中は多くの登山者で賑わう。」
ニッコウキスゲ「夏に咲く高山植物。その他、キンバイソウ、コオニユリなど、車山には多くの植物が咲き誇る。」
「夜明けの車山。向こうに富士山を望む。」
松本 隆宏(文/山本さくら)