第一時世界大戦下、同盟国であるイギリスの要請により、日本は中国の青島を攻撃し、ドイツ軍を陥落させるシーンからスタートする。その際に捕虜となったドイツ兵6,000人のうち、徳島県鳴門市の板東俘虜収容所では約1,000人を収容。所長・松江豊寿(松平健)の人道的な配慮により、捕虜が人間の誇りを守りながら、地域住民との交流を図っていくというストーリーだ。
ノンフィクションを元に脚色されているため、どこまで史実に忠実かは不明だが、戦争映画にありがちな傲慢さや無機質さがないのが好印象だろう。
捕虜への人道的な計らいは、世界では賞賛されたものの、日本では長らく歴史に埋もれていたという。おそらく、これが第二次世界大戦下であれば状況は変わっていたかもしれない。
当時の日本には降伏は恥とする思想が根強く、捕虜を軽んじる傾向にあったが、それでも松江は武士道の精神である「敵を敬え」に忠実であった。軍部の意向に背いてまで、なぜ彼は捕虜に敬意を示し、心に寄り添ったのか。その背景にもぜひ注目して欲しい。
また、板東俘虜収容所は、日本で初めてベートーヴェン交響曲第九番が演奏された場所だという事実にもスポットを当てたい。フィナーレのコンサートシーンは、人間同士の崇高な精神が通じ合った瞬間がある。文化や言葉の壁を越えて、人の心を豊かにする音楽の力を感じることが出来るだろう。さまざまな感情が交錯し、印象に残った映画だった。