この映画は、加賀藩に実在した包丁侍・舟木伝内(ふなきでんない)一家の物語だ。作中の料理は、舟木伝内とその息子安信が遺したレシピ本「料理無言抄」を基に忠実に作られている。
江戸時代の将軍家や大名家には、君主とその家族の健康を守り、「饗応料理(おもてなし料理)」で要人をもてなす藩の台所番が存在したそうだ。
対外的に饗応料理は藩の顔である為、そのお役目は大変重要。ところが、武士としては足軽に近い低い身分の上、剣を持てない舟木家跡取り息子安信(高良健吾)は、無気力な上に料理が下手。その舟木家に料理の腕を見込まれた主人公・お春(上戸彩)が嫁ぎ、夫を支え奮闘するという内容だ。加賀藩台所番を題材にしたストーリーは、実にユニークで新鮮な切り口だった。
ストーリー展開も、加賀藩お家騒動、料理対決、夫婦喧嘩など多彩な局面が盛り込まれ、シリアスな場面とコミカルな場面が入り混じり見応えがある。
併せて石川県の郷土料理が知れたのは個人的に面白かった。料理というものは、簡単に済まそうと思えばいくらでも可能だ。しかし、手間暇かけてじっくり作れば、その分美味しいものに仕上がる。煮物ひとつ取ってもそうだ。下ごしらえ、ダシ取り、味付け、火加減と、それぞれの工程を丁寧にやれば奥深い味わいになり日持ちだってする。
食は人と人を繋ぐ手段であり、食事の場はコミュニケーションの場だ。作り手の気持ち、愛情、労力、そういった普段置き去りにしがちな大切なことや、人と人との絆について気付かせてくれた作品だった。
コロナ禍の巣篭もり生活により、家族団欒が増えたというメリットはあるものの、また以前のように外でワイワイと皆で料理を囲む光景を早く目にしたいと願う。