染井為人の同名小説を実写映画化した『正体』が、昨秋公開されました。
一家惨殺事件の死刑囚の逃亡劇を描いたサスペンスを、社会派監督でおなじみの藤井道人氏がメガホンを取り、横浜流星(主人公・鏑木慶一役)、山田孝之(又貫刑事役)、吉岡里帆、森本慎太郎らが熱演。公開からすぐに大ヒットを記録しました。
本作は、過去と現在を行き来しながら、逃亡犯・鏑木の視点、逃亡を繰り返す過程で鏑木が出会った人たちの視点、事件の目撃者の視点、刑事・司法の視点と、4つの視点が交錯する構成となっています。テンポの良いストーリー展開、そして5つの顔を演じ分け心の葛藤を見事に表現した横浜流星の演技がマッチしたことがヒットの要因だと感じます。また、国家権力の圧力に揉まれながらも、最後に正しい決断を下した山田孝之の演技力が、さらに作品のクオリティを支えているのではないでしょうか。
冤罪によりたった18歳の若さで過酷な運命を背負うというストーリー設定は、フィクションといえど胸が締め付けられるものがあります。生きていれば誰しも、理不尽な出来事に見舞われることがあるでしょう。真実を語れば語るほど状況は悪化し、時に正義やルールが通用しないことさえも。ただ、日頃から正直で誠実な生き方をしていれば、いざ理不尽な目に遭っても、信じてくれる人が現れるものです。本来、逃亡犯は他者との関わりを持とうとはしないはずですが、鏑木は他者と触れ合いながら素の姿を見せていたこと、そして「人」を「世界」を信じ続けたことが、結果、自身を守ることになりました。
いわれなき罪により人生が狂いながらも、それでも最後に曙光がさす感動の展開は、きっとあなたの心に深く響くことでしょう。