時空の旅

「城崎温泉 兵庫県 豊岡市」
兵庫の奥座敷でなごむ湯巡り旅

(掲載:2024年4月 回帰 第17号)

元箱根から望む富士山と箱根神社の鳥居

【城崎温泉】
兵庫県の北部(但馬地域)、豊岡市に位置する。平安時代以前からの長い歴史があり、有馬温泉、湯村温泉とともに兵庫県を代表する温泉。カニ料理に和牛の素牛である但馬牛、豊かな山の幸など、ご当地グルメに事欠かない。

兵庫県の最北端にある「城崎温泉」は、関西を代表する温泉街。その歴史は、元正天皇の養老元年(717年)、道智上人が開湯したことから始まる。

ある日この地を訪れた道智上人は、病に苦しむ人々を目の当たりにし、鎮守四所明神に「人々を救いたい」と祈願する。すると、道智上人の夢の中に現れた老人が「西南にあるビランの木の下を掘りなさい。汝の求める温泉が見つるだろう」と言った。そのお告げの場所で道智上人が1000日間、八曼陀羅経(はちまんだらきょう)を唱え、ついに満願を迎えた時、突如霊湯が湧き出したという。

以降、1300年間、城崎温泉は地域の人々をはじめ旅人の癒しの場として栄えてきた。

文豪たちが愛した街

平安時代から現代まで、多くの歌人、俳人、文豪らがこの街に惚れ込んだ。

作家・志賀直哉の最も有名な作品「城の崎にて(きのさきにて)」では、『“自分(志賀直哉)”は、東京山手線の電車にはねられ怪我をし、後養生に兵庫県の城崎温泉を訪れる』と記している。

また、彼は生涯に何度もこの地を訪れては、馴染みの老舗旅館「三木屋」で過ごした。その際、「温泉はよく澄んで湯治によく、周囲の山々は緑で美しい。おいしい日本海の魚を毎日食膳に出し、客を楽しませてくれる。人の心は温かく、木造作りの建物とよく調和している」と語っている。

長きにわたって紡いできた多彩な魅力と歴史の積み重ねが、文豪らの創作意欲を掻き立て、愛されてきた所以なのかもしれない。

外湯「一の湯」から約1kmをかけて続く美しい桜並木

大谿川納涼灯篭流しに夢花火。城崎の夏の夜を彩る

脈々と受け継がれる「古式入湯作法」

かつて「城崎温泉に訪れた際は、まず道智上人が開創した温泉寺で入湯作法を教わる」という風習があった。

やり方はこうだ。はじめに、道智上人の霊前に参拝。次に、古式入湯作法を教わり、最後に湯杓を授かってはじめて城崎温泉の湯に浸かることができたのだという。

現在はこの作法を教わらなくても入浴できるが、温泉寺では当時の「古式入湯作法」を今に伝える。

城崎温泉の魅力は、なんと言ってもレトロな街並みを彩る柳並木と、石造りの太鼓橋が美しい大谿川(おおたにがわ)の景色だろう。

春は桜、夏は花火、秋は月、冬は銀世界。浴衣に下駄が正装といわれる城崎スタイルで、四季の風物詩を感じながら外湯巡りを楽しめるのがこの地の醍醐味だ。

地元の人も毎日通うという外湯には、「さとの湯」「地蔵湯」「柳湯」「一の湯」「御所の湯」「まんだら湯」「鴻の湯」の計7軒がある。泉質は同じだが、それぞれに伝説がありご利益も異なる。浴感はさらっとしているわりに美肌効果が高く、乳幼児にも優しい。

なかには、湯船に足を入れるのさえためらうほど湯温が高い外湯もあるため、すべてまわるのなら長湯をしないことがオススメだ。近年では海外の観光客も増え、慣れない浴衣で温泉文化に親しんでいる姿を見かける。

往時の道智上人は、よもや想像していなかった光景に違いないが、日本人が古来より愛してきた伝統文化を魅力に感じてもらえるのは嬉しい限り。

城崎温泉の守護寺「温泉寺」。古式入湯作法を今に伝える

城崎温泉駅前の飲湯場。街には計3ヶ所の飲湯場がある

外湯「御所の湯」。名前の由来は、後堀河天皇の御姉安嘉門院が入湯されたことに始まる。ご利益は美人の湯・良縁成就など

絶対食べたいご当地グルメ

日本海に近い城崎は、海の幸の宝庫だ。近港で水揚げされた松葉ガニのブランド・津居山ガニを筆頭に、のどぐろ、ハタハタなど、四季折々の魚介を堪能できる。

また、名物の但馬牛は、和牛三大ブランドの素牛(もとうし)であり、和牛の中でも最高級とされる逸品。

駅前通りには、海鮮に但馬牛のステーキ、しゃぶしゃぶのほか、ハンバーガーの店が軒を連ね、旅人の心と胃袋を満たしてくれる。浴衣で湯巡りをしながらご当地グルメを楽しめるのも、城崎のもうひとつの醍醐味だろう。

「食・文化・人・自然・歴史」すべてが豊かに培われてきたここ城崎で、温泉地の原風景を感じていただきたい。

観光客に人気の但馬牛コロッケ

近郊で水揚げされた津居山ガニの蒸し鍋

但馬牛のしゃぶしゃぶ