「地主」というと「資産家」「お金持ち」というイメージがある。実際、地主には資産家が多いのだが、彼らにも悩みはある。そう、相続である。
日本の相続税は最高税率が55%と、世界でもトップクラスに高い。この相続税負担が重すぎて先祖代々受け継いできた土地を手放してしまう地主もいれば、効果的な資産防衛の方法を知らずに、相続のたびに資産を減らしてしまう地主もいる。
『地主の決断 これからの時代を生き抜く実践知』(松本隆宏著、サンライズパブリッシング刊)は、地主の役割を「先祖代々受け継いできた資産を維持、または増やして次世代に引き継ぐこと」として、そのための方法を解説している。
地主が資産を維持することの大敵は、先述のように日本の高い相続税である。「三代の相続で資産がなくなる」ともいわれるが、これは決して大げさではない。
本書の試算では、10億円の資産を持つ地主でも、子ども、孫にそれぞれ配偶者と子がいた場合、三回目の相続、つまり孫からひ孫への相続が行われた段階で、その資産は6400万円まで減ってしまうという。これは配偶者への相続を含めると三代の相続でも合計6回の相続が発生するから。そして日本の相続税の高さゆえでもある。
10億円が6400万円に。これが「三代の相続で資産がなくなる」の現実である。
一方で、これは相続対策を何もしなかった場合の試算であり、資産に対する考え方と行動を変えれば、必ずしもこの資産通りにはならないとも本書は指摘している。資産としての土地の活用法は様々だが、どう活用するにしても一族の未来を担う地主は経営者としての能力が必要とされる。
・人を見極める力…地主は銀行の担当者や不動産管理会社、税理士などさまざまな分野の専門家と付き合うことになる。だからこそ、どんな人をパートナーにするべきか、どんな問題をどのパートナーに相談するかを見極める能力が必要なのだ。
・時代の流れを読む力…その時々の時流によって、とるべき選択肢の最適解は変わる。今は資産を増やすために勝負に出るべき時期なのか、それとも時機を待つべきなのか、その選択次第で未来の資産は大きく変わる。
・決断する力…地主にはこの力に欠ける人が多い。「死んだ祖父が土地を売るなと言っていた」「売りたいが妻が不安がっている」などの他責思考をやめて、自らの意思で決断する力が地主には求められている。
これらが地主に必要な能力であり、経営者として土地の活用を考えるための第一歩となる能力である。
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資産を目減りさせたい地主などいない。誰しもが資産を守って次の代に託したいと考えるなかで、どんな選択肢があり、どんな人に相談すべきなのか。
本書は土地活用の手法として不動産投資の可能性に触れつつ、地主に必要とされる考え方や能力について解説していく。自分の代で資産を減らしたとなっては先祖にも子孫にも申し訳が立たない。のちのち「自分の代で一族が栄えた」と言われるように、資産を守るだけではなく増やすための手法を本書から学んでみてはいかがだろう。
はじめに
第1章 地主の実情
第2章 地主と経営
第3章 地主の問題点
第4章 地主の資産防衛 ─ 土地活用の意義を見つめ直す
第5章 地主の未来
おわりに