連載経営者インタビュー
松本 隆宏 × 岸田 憲一
業界最前線!注目の企業から学ぶ
第2回目は2017年に起きたあの地面師事件の舞台裏について、
1枚の不動産登記簿謄本から真相を読み解いていただいた。
岸田憲一
KTオフィス土地家屋調査士法人、
KTオフィス司法書士法人、
株式会社 岸田総合事務所の3社を
統括するKISHIDAグループ代表取締役
近畿大学理工学部卒。
1972年生まれ、大阪府出身。
土地家屋調査士・司法書士の登記分野における
ワンストップサービスを提供し、
業界トップレベルのグループ規模を誇る。
第2回あなたの土地が狙われている!
世間を震撼させたあの「積水ハウス地面師事件」の手口とは!?
三為契約の時点で契約の不安定さが伺える
ーそれでは、積水ハウス地面師事件について、その全容をご解説ください
岸田
この土地は、平成 年4月 日、土地所有者Eさんのなりすまし役(以下、なりすまし役)から、売買予約でIKUTAHOLDINGS(株)(以下、IKUTA)に移転し、同日に積水ハウスさん(以下、敬称略)に売買予約でさらに移転してい ます。よって、積水ハウスの売主はIKUTAということになります。つまり、第一の契約として、なりすまし役とIKUTA、第二の契約としてIKUTAと積水ハウスの二つの売買契約が締結されています。これは、三為契約(さんためけいやく)と呼ばれる手法です。
松本
三為契約とは俗にいう業者間の中間省略契約のことですよね?
岸田
所有権の変動はAからBそしてCへ移転しますが、登記はAからCに直接起こるという流れです。この契約により、中間業者Bは、2つの税コスト(登記手続きに関する登録免許税と不動産取得税)がかからないという節税メリットがあります。しかしながら、Cからすると、契約の相手方にならないAを登記書類上でしか確認できず、この点が、Cにとっては大きなリスクとなります。 ここで積水ハウスの話に戻すと、こちらの図( A)の通り、なりすまし役とIKUTAとの第一の契約、IKUTAと積水ハウスとの第二の契約の二つの契約が存在します。
真の所有者Eさん(以下、Eさん)には売る意思がなく、IKUTAはなりすまし役と契約を成立させます。そして、積水ハウスは、IKUTAがなりすまし役から売買で取得する前提で契約をした。
ここで考えて頂きたいんですが、もうこの時点でこの契約は若干不安定な状態となりますよね。
松本
確かに。
岸田
つまり、積水ハウスは、現時点の所有者であるEさんに直接意思確認を行うことができないまま、IKUTAとだけの商談が進んでしまった。
積水ハウスは、売買予約を行った際の手付金をIKUTAに支払い、IKUTAからなりすまし役に流れるわけですよ。今回の事件で、その手付金の額は 億円と報じられています。
でも、積水ハウスにとって、お金を支払ったのに何もないのは困るから、ここでIKUTAはその真実を証明するため、所有権移転請求権仮登記を行い、同日にIKUTAから積水ハウスへ仮登記されています。それが不動産登記簿謄本でわかります。
おそらく、売買契約当日は、なりすまし役、IKUTA、積水ハウスの担当者が集まって、売買予約契約を行い、資金実行を行ったと思います。
松本
仮登記はできたんですか?
岸田
はい、仮登記はできました。でも、おそらくEさんの書類はすべて偽造だったと思います
松本
えっ?偽造ですか?
岸田
はい、偽造だったと思います。 なりすまし役は、偽造の印鑑証明、偽のパスポートで会場に現れ、取引と登記を成立させたんです。積水ハウスもプロだから、取引に関係した司法書士や弁護士は細心の注意を払ったと思いますが、不幸なことに騙されてしまった。
松本
なりすますことって、本 当に可能なのかと思うんで すけど出来てしまうんですね。しかも、弁護士や司法書士のようなプロを騙すんだからすごいですよ。巧妙だし役者だし。これも氷山の一角だと言われているんだから恐ろしい。
岸田
確かになりすまし役の巧妙さはすごいです。実はですね、仮登記が通ったということは、法務局は偽造書類で登記を行ってしまっています。書類はきわめて精巧だったんでしょうね。
松本
そうなると、これは法務局の問題とも言えると思うのですが…。
次回は、ぜひここにフォーカスしていきたいと思います。